前回は 山登りは理想的な有酸素運動なんです というお話をしましたが
今回は じゃあヤマには どんな筋肉や能力が必要なのか?というようなお話ですサミッターやトップクライマー・アルパインクライマーさんたちの雄姿を
TVやネットなどで拝見すると 多くの方は 本当にスマートでほっそりしています
中には 筋肉隆々の方もいますが まず皆さんいわゆる「クライマー体型」なんです
これ絶対、何か秘密がありますよね?!
みなさん「スポーツ遺伝子」ってご存知ですか?
以前 TVでも「金メダル遺伝子」!としてとり挙げられました。
実は これが、「クライマー体型」と密接に関わっています。たぶん。
以前、イモトさんのManaslu登頂の話題をブログに書いた際(2013年11月17日)、
ACE(アンジオテンシン変換酵素angiotensin-converting enzyme)のお話をしましたが、
これも実は、3大スポーツ遺伝子の1つです
3大スポーツ遺伝子とは?
① ACTN3遺伝子
この遺伝子は、「αアクチニン3」というタンパク質を設計する役割をもっています
このαアクチニン3は、瞬発力を生み出す「速筋繊維」の内部に働きかけ、
筋繊維の構造を強化することを可能にしています いわば、αアクチニン3は
筋肉が高速で収縮しても耐えうる強さを生み出すタンパク質です
スプリンターのあの見事に発達した大腿は遺伝子の裏付けがあってのものなんですね!
ちなみに「RR型」「RX型」「TT型」の3タイプがあります。
RR型が両親からαアクチニン3を作れる遺伝子を受け継いだタイプ
RX型は、半分、残念ながら TT型は 両方から受け継がなかったタイプです
ちなみに自分は、「RX型」でした
スプリンターの解析データでは、実にRR型が75%!、RX型が22%、TT型は3%しかいません
つまり一流スプリンターの実に97%が、αアクチニン3が作られるタイプ。
十分条件ではないものの、必要条件なんですね
筋トレをやっても一向にマッチョになりません
というのも実は遺伝子の定めかもしれません。
一般の方(僕も含めて)の筋では、無酸素系の能力に優れる「速筋繊維」と
有酸素系の能力に優れる「遅筋繊維」がほぼ半々に混ざり合っていますが
トップアスリートでは、その種目の運動特性にマッチした筋繊維組成を示します
スプリンターでは、速筋繊維の割合が70%を越え逆にマラソン選手では
遅筋繊維の割合が70%を越えます
さらに高所クライマー・アルパインクライマーでも遅筋繊維の割合が
70%前後といわれています 酸素の少ない高所では、有酸素系のエネルギー供給能力
に優れる遅筋繊維をたくさん持っていることが 有利なんですね!
逆にボルダリング選手等は 速筋繊維の割合が多く瞬時に爆発的なエネルギーを生み出す
能力(ランジなどが典型)に優れているのでは?!と思われます
よくボルダリングでパンプアップって耳にしますよね。筋繊維が発達したアスリートならではです
ただしパンプアップすると、筋可動域は下がってしまうので「ムーブ」の習得はパンプアップ
していない状態で行わないといけません
自分はどちらかというと瞬発系ではなく持久系なので ランジとか全くダメ
キョンとかトラバースとかは意外と得意です
② ACE遺伝子
この遺伝子にも3タイプあります 「I I 型」「ID型」「DD型」
DD型は、ACEの働きが強い つまり血管を収縮させる働きが強い傾向があり逆にI I 型は
ACEの働きが鈍い つまり血管を収縮させる働きが弱く 運動中でも筋肉へ供給される
血液の量が減りづらいため 体内への酸素運搬が滞らずに 結果として
全身持久力が高まっていると言われています トップクライマーに多いタイプですね
自分も遺伝子だけは、I I 型
③UCP1遺伝子 別名、肥満関連遺伝子
最近、ネット通販などでも取り扱っているダイエット関連の遺伝子キットは、
大体はこの遺伝子を調べるものです
(*ちなみに肥満関連遺伝子には、UCP1の他にβ3AR(βアドレナリン受容体)遺伝子
β2AR(同じくβアドレナリン受容体)遺伝子などがあります
いわゆる「倹約遺伝子」です
人類の歴史のほとんどは「飢え」との戦いだったため、必然的に、いざという時のために
エネルギーをため込んだり、 なるべくエネルギーを消費しないしくみが、備わってきたんですね!
以下は参考までに。
★リンゴ型肥満
β3ARの遺伝子に変異を持つ人で日本人の中で最も多く 約34%の人が持っています
基礎代謝量が持たない人より、200キロカロリー低くお腹が出ている
男性に多い内臓脂肪型肥満が特徴です
※ちなみに200キロカロリーとは「どら焼き1個分」で、この遺伝子を持つ人は
持たない人より毎日どら焼き1個分多く、食べていることになります
★洋ナシ型肥満 UCP1の遺伝子に変異を持つ人で、日本人の約25%の人が持っています
基礎代謝量が持たない人より、100キロカロリー低く 下半身に皮下脂肪が溜まりやすい
女性に多い皮下脂肪型肥満が特徴です
★バナナ型肥満 β2ARの遺伝子に変異を持つ人で、日本人の約16%の人が持っています
基礎代謝量が持たない人より、200キロカロリー、逆に高く ひょろりと痩せている人に多いので
一見、肥満に見えません ところが基礎代謝量が減る中年以降に太りやすくなり また、
一度太ると痩せにくい、という特徴があります
スポーツ遺伝子としての、UCP1の話にもどると、UCP1の「AA型」・「AG型」は、
体がエネルギーを節約せず、熱として放出しやすい。
つまり、これらのタイプのひとは、体がエネルギーを消費してくれるので
太りにくい体質だと考えられています。
逆に「GG型」のひとは、体がエネルギーを 節約して熱を貯め込みやすいので、
太りやすいと考えられています。 つまり、少しのエネルギーでたくさん動くことができるから、
長距離走には、GG型が有利だと考えられています
ただクライミングとの関連については、まだデータが少ないようです
つまり、結局のところあの「クライマー体型」は、素質と努力の産物だと考えられます
素質(遺伝子やそれによる筋肉のタイプ)と厳しいトレーニング(下界でのトレーニングと
高所クライミングの実践の両方)の どちらもが重要だろうということです
サミッターやトップクライマーの方は、余分な筋肉をほとんどつけない(つかない?!)そうです
酸素需要・エネルギー消費という観点からからは無駄ですから
特に平地の3分の1しか酸素のない、高所登山では、よりシビアになるということですね
血圧、心拍数、VO2max(最大酸素摂取量)などは、
トレーニングによっても大きく改善しますし、
トップクライマーは、血圧低め(一般の方より約13%低い)
心拍数は 安静時心拍が低めで 最高心拍数は高め つまり「心拍予備能力」が高め
VO2max(これが高所登山に必要な行動体力の中核)は
一般の方より60%以上も大きいそうです!
でも、肺活量や筋繊維組成などは、トレーニングをしても、あまり改善しません
すなわち「素質」と「努力」が 兼ね備わって
初めてトップクライマーやトップアスリートに なれるんですね!
登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.1
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