登山Climbingは理想的な有酸素運動です!Vol.4 「 LT レベルを守ろう 」


2013年5月 西穂高岳にて  山頂直下









今回はLTレベルの話題。

トレランとかされる方は、ご存知の方も多いかと思います。

まずは運動負荷と乳酸のお話です。

山登りやクライミングでハイピッチの登りで、心臓バクバク!なんてご経験、誰しも一度はありますよね!?これは、身体に運動の負荷がかかっている証拠なのですが、運動の負荷を測るスケールもいろいろとあります。

単位時間ごとに取り込む酸素の量だったり、血液中に含まれる代謝産物の量だったり・・・。ただなかなかこういったものをお手軽に測るのは、難しいですよね。

そこで比較的手軽に運動強度を把握できるものとしておすすめなのが、心拍数です。



横軸(運動強度)が増すと、当然のことながら、縦軸(心拍数)が右肩上がり!身体はとても正直です。


モルゲンロートの槍ヶ岳

心拍数は、とりあえず概算なら10秒間、手首で測って 6倍してもいいですし、スポーツジムなら、心拍計のついたランニングマシンがずらーっと並んでいます。ちなみに自分は、山登りやトレーニングのとき、腕時計タイプの心拍計を使っています。

実は、心拍数と酸素摂取量は、ほぼ平行に同じような 上がりかたをします。ヒトは取り込んだ酸素を利用して糖や脂肪を分解し、運動エネルギーを獲得するため、運動強度に正比例して、増加していきます。そして運動強度をひたすら上げていって、限界ギリギリ!
という限界点が、最大酸素摂取量(VO2MAX)となります。



ただ酸素摂取量を直接測るには、特殊な設備などが必要になり なんか面倒です。そこで、お手軽に測れて、しかも高精度な
「 心拍数 」の出番。
もうダメ!というレベルのハードな運動時の心拍数を最高心拍数として、山登りやランニング、日常動作の際の心拍数が最高心拍数の何パーセントにあたるかで運動強度が割り出せます。

最大心拍数は、実際にもうダメです!という運動をわざわざ行わなくてもほぼ概算で220マイナス年齢といわれています。  
40歳なら180ということになります。

下図は、この最大心拍数と普段の安静時の心拍数から割り出せる運動強度(目標心拍数)の計算式になります。




どれくらいを目標として設定するかが重要です。

ストレス解消やQOL向上目的だけなら30%で十分です。
荷物をもったり、階段を昇り降りするだけでもそこそこになります。

40~70%が、健康スポーツの丁度よい範囲になります。
いわゆる健康維持・増進体力の保持増進。70%が安全上限。

運動強度として、80~90%は競技スポーツの世界です。いわゆるアスリートのトレーニングレベルなので、一般の方、特に年配の方や持病をお持ちの方などは、やめておきましょう。かえって、身体に負担がかかります。

ランニングなども運動強度を間違うと(目標心拍数を高く設定しすぎると)循環器や運動器に負担がかかりすぎたり、過剰な活性酸素の影響等で、かえって身体に毒となる場合もあります。何事もほどほどに。活性酸素は、いろんな役割を果たす特別な酸素ですが、余分な悪玉活性酸素は、多くの病気との関わりもわかっています。





そして、本題のLTレベルとは?というお話に。
その前にそもそも乳酸とは?というお話をしなければなりません。乳酸と聞くと、「乳酸が溜まって疲れたなあ」というような会話がでてきそうです。実は、この乳酸悪玉説は20世紀初頭の仮設がもとになっているのですが、なんと100年近くも具体的に立証されることなく今日までまことしやかにいわれつづけています。ですが、この乳酸=悪者・疲労のもとという説は、最近の研究で覆されつつあります。
乳酸:lactic acid
こんな形してます

乳酸は主に糖質からエネルギーを生成するプロセスで作られる中間物質です。

低強度の運動だといったん乳酸が作られてもミトコンドリアの中のクエン酸回路に取り入れられ、エネルギーとしてリユースされます。

一方、高強度の運動では、乳酸は再処理しきれずに、筋肉内に蓄積されていきます。
この乳酸が血液中にどの程度含まれているかを示すのが血中乳酸濃度。






楽な運動をしている間は、ずっと横ばいですが、一定以上のきつい運動になるとあっという間に右肩あがりになります。心拍数や酸素摂取量とはずいぶん違うカーブ。



乳酸の増加量を見ると2段階に分かれています。
この第一のポイントがLT (Lactate Threshold)ラクテートシュアスホールドといいます。
専門用語で乳酸作業性閾値といいます。

そして第二のポイントがOBLA(Onset of Blood Lactate Accumlation)といいます。

少しややこしい話になってきましたが、このLTレベルを超えると「楽」から「ややきつい」という強度になります。さらにエネルギーの代謝経路も脂肪を燃焼する有酸素系主体から糖質を代謝する解糖系主体にシフトします。

LTレベル 【最大酸素摂取量】の約50%レベル

【血中乳酸濃度】2mmol/㍑

【最高心拍数】の約60~70%

一方の第二ポイントのOBLAはこれを超えると、筋肉中に蓄えられているクレアチンリン酸という物質を利用して、素早くエネルギーを確保しなければならないかなりシビアな無酸素運動領域になります。これを担うのは主に速筋繊維です。酸素を使った燃焼が間に合わなくなり、緊急燃料つかわなきゃ!となります。



間に合わなくなってくると酸素用のエネルギー源(ピルビン酸)が処理しきれずにだぶついていきます。だぶついたエネルギー源は乳酸に変換され筋肉内に溜まっていきます。



この乳酸が血液中に出て、こんどは遅筋繊維で大量の酸素を使ってエネルギーを作り出せるようたくさん使われます。これが乳酸のリユースです。





糖はすぐ使える便利なエネルギー源ですが、そのままではストックしておけないのが欠点。
ただ過剰な糖の摂りすぎは、もちろんよくないですし、一定量に保てるよう
バランス調整が必要です。
*糖の摂りすぎは、AGEs(Advanced Glycation End Products)
(エイジーイーエスと呼びます)が増える原因になります。
これは、血管などの老化をはやめる一つの原因になります。
もちろん糖尿病などの病気の原因にもなります。
糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、健康診断でもおなじみですね!
血管の架橋役のコラーゲンの糖化もこのAGEsが原因。

この調整のため糖質は肝臓と筋肉にグリコーゲンとしてストックされます。
ただ不便なことにグリコーゲンの形のままでは、糖は血液中にでられません。筋肉内ではピルピン酸から乳酸へと変化することでエネルギーを生み出します。また肝臓にストックされたグリコーゲンは血糖値を一定にする役割をもちます。

血糖が下がってしまうと脳は*非常時以外は、糖だけをエネルギーにしているので、これが足りなくなると一大事!
*非常時、いわゆる飢餓の時等は、ケトン体といわれるものが、脳の緊急のエネルギー源となります遭難から生還!なんていうときはたぶんお世話になっています。

ここでは、乳酸などから糖が生成される糖新生!*これについてはまたの機会に
という仕組みが働きはじめます。

このように糖の分解量と使用量のバランスをとるのが、乳酸の大きな役割の一つなんです。
なんか乳酸のイメージだいぶ違いますよね!

かなりわかりにくい話になってしまいました。
長くなってしまったので、次回に続く・・・にさせていただきますm(_ _)m


次回、いよいよ

登山 ~クライミング~ に「 LT レベル 」を生かす!です

トレーニングでLTレベルが変化し、実際の山に生かせます!

あと宿題の筋肉の話も次回に

バックナンバー

登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.1

登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.2

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です! VOL.3. 山で使う筋肉の話

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.4 「 LT レベルを守る 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.5 「 LT レベルをヤマに活かす① 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.6 「 LT レベルをヤマに活かす② 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.7 「 LT レベルをヤマに活かす③ 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.8  EXERCISE & PGC-1α