運動強度と疲労、乳酸とLTレベルの話の続き。
LT レベルまでは、有酸素系主体の運動。OBLA 以降は 無酸素系主体の運動 でした。
無酸素系主体の運動では、血中の乳酸濃度が急激に上昇。かなりシンドいシビアな運動領域に。ただし乳酸は悪者ではなく、エネルギーの再分配の役割を担い、 バランス調整を図るためにリユースされてるのでした。このリユース能力もトレーニングで 向上が図れるとしたら、さらにもっと効率が上がります。
実際、アスリートやトップクライマーはこの乳酸のリユース能力がとても高いといわれています。前回のエネルギー源として糖や乳酸に加えて、もう一つ大事なエネルギー源があります。それが脂質(脂肪)です。 糖質は貯蔵に向いていないというお話をしました。
燃焼効率の問題もあります。糖質が 1グラムあたり4キロカロリーの熱量を発揮するのに対して、中性脂肪は1グラム9キロカロリー。 (ちなみにアルコールは1グラム7キロカロリーで 結構なエネルギー量。飲みすぎには注意しましょう)
さらに貯蔵の問題も。糖質は貯蔵に約3倍の水を要しますが、中性脂肪は水なしで貯蔵が可能です。ちなみに総エネルギー消費量の内訳は基礎代謝が60%、食事誘発性体熱産生が10%、 残りが運動や運動以外の身体活動になります。ご飯食べると身体温まりますよね。
この食事でとったエネルギー、糖や脂質は5%が熱産生に回りますが、タンパク質はその30%が回ります。朝ご飯はやっぱりしっかりと タンパク質も摂った方がよいです。納豆とか卵とか 昔ながらの朝ご飯って やっぱり朝の始まりによいんですね。
ただしタンパク質は代謝に時間がかかります。
糖質・脂質・タンパク質をバランスよく摂るのが大事です。
エネルギー効率や備蓄エネルギー源として優れているなどの総合面で、脂肪は優れたエネルギー源といえます。運動のエネルギー源となる 糖と脂肪は ↓こんな感じで使われています
体脂肪は体内では脂肪細胞という専用の容器に収められています。脂肪細胞の総数は250~300億個。その主役は中性脂肪です。中央部に油滴という中性脂肪の 大きな固まりを抱え、細胞核やミトコンドリアといったそれ以外のパーツは隅っこに追いやられています
脂肪細胞 ほぼ体積の大半を油滴が占めてます 黄色の風船みたいなのが油滴 |
太ると油滴が大きくなって脂肪細胞が風船のように膨らみますが、脂肪細胞には「サイズの限界」があり、元の体積の約3倍以上にはなれません。
サイズの限界まで脂肪細胞が膨らむと今度は脂肪細胞の数が増えます。本来、脂肪細胞の数は子供のときに決まっていて通常は大人になっても増えません。
脂肪細胞の数を一定に制御しているのは、
「PPARγ(ピーパーガンマとかピーピーエイアールガンマと呼びます)」
(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)という転写因子で、太りすぎると DNAから情報が伝わり、普段はオフになっている「PPARγ」の スイッチが入ります。サイズが大きくなりすぎて脂肪細胞が破裂してしまうと一大事。
このため脂肪細胞を増やす情報をDNAから読み出して、大きくなりすぎた脂肪細胞を分割・小型化し、 脂肪細胞数を増やします。これを「脂肪細胞の分化」といいます。
その昔、糖尿病の薬にピオグリタゾン(商品名:アクトス)という薬がよく使われていましたが、 この薬にはこの転写因子(詳しくは核内受容体といいます) の「PPARγ」をのべつまくなしに刺激する作用があり、この薬をのむとやみくもに脂肪細胞の数が増えてしまいました。数が増えた状態で、カロリーコントールなどができないと、数が増えたままサイズもまた 大きくなってきてしまう薬です。サイズが大きくなる、当然体重が増える、すると悪玉アディポサイトカインが再び出始める・・・。 善玉アディポサイトカインは減る一方。さらに一度増えてしまった脂肪の数は減りません。いいことなしでした。
結局、最近では糖尿病の方には、ほとんど使われなくなり、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)など ごく限られた用途にしか使われなくなっていまいました(>_<)
少し脱線しましたが、以前に登山〜クライミング〜は理想的な有酸素運動です!
vol.2 クライマー体型って?!スポーツ遺伝子のお話で、皮下脂肪と内臓脂肪のことにふれました。
さらにサイズの大きい内臓脂肪からは、悪玉アディポサイトカインが出てきて、善玉は減ってしまうんでした。これがいわゆるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)。
Metabolic Syndrome
アブラになるのはアブラだけではありません。日本人はカロリーの半分以上を 糖質から摂りますが、その糖質も脂肪細胞で中性脂肪になります。糖質にはご飯やパンなどに含まれているでんぷん、果物などに多い果糖やグルコース(ブドウ糖)、 お菓子や清涼飲料水などに含まれる砂糖(ショ糖) などがあります。 これらの糖質はグルコースに分解されて小腸から体内に入ります。その後、中性脂肪と同じように門脈を通って 肝臓へ入ります。 肝臓に運ばれたグルコースの一部はそこでストック。
サイズの限界まで脂肪細胞が膨らむと今度は脂肪細胞の数が増えます。本来、脂肪細胞の数は子供のときに決まっていて通常は大人になっても増えません。
脂肪細胞の数を一定に制御しているのは、
「PPARγ(ピーパーガンマとかピーピーエイアールガンマと呼びます)」
(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)という転写因子で、太りすぎると DNAから情報が伝わり、普段はオフになっている「PPARγ」の スイッチが入ります。サイズが大きくなりすぎて脂肪細胞が破裂してしまうと一大事。
このため脂肪細胞を増やす情報をDNAから読み出して、大きくなりすぎた脂肪細胞を分割・小型化し、 脂肪細胞数を増やします。これを「脂肪細胞の分化」といいます。
その昔、糖尿病の薬にピオグリタゾン(商品名:アクトス)という薬がよく使われていましたが、 この薬にはこの転写因子(詳しくは核内受容体といいます) の「PPARγ」をのべつまくなしに刺激する作用があり、この薬をのむとやみくもに脂肪細胞の数が増えてしまいました。数が増えた状態で、カロリーコントールなどができないと、数が増えたままサイズもまた 大きくなってきてしまう薬です。サイズが大きくなる、当然体重が増える、すると悪玉アディポサイトカインが再び出始める・・・。 善玉アディポサイトカインは減る一方。さらに一度増えてしまった脂肪の数は減りません。いいことなしでした。
結局、最近では糖尿病の方には、ほとんど使われなくなり、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)など ごく限られた用途にしか使われなくなっていまいました(>_<)
少し脱線しましたが、以前に登山〜クライミング〜は理想的な有酸素運動です!
vol.2 クライマー体型って?!スポーツ遺伝子のお話で、皮下脂肪と内臓脂肪のことにふれました。
さらにサイズの大きい内臓脂肪からは、悪玉アディポサイトカインが出てきて、善玉は減ってしまうんでした。これがいわゆるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)。
Metabolic Syndrome
アブラになるのはアブラだけではありません。日本人はカロリーの半分以上を 糖質から摂りますが、その糖質も脂肪細胞で中性脂肪になります。糖質にはご飯やパンなどに含まれているでんぷん、果物などに多い果糖やグルコース(ブドウ糖)、 お菓子や清涼飲料水などに含まれる砂糖(ショ糖) などがあります。 これらの糖質はグルコースに分解されて小腸から体内に入ります。その後、中性脂肪と同じように門脈を通って 肝臓へ入ります。 肝臓に運ばれたグルコースの一部はそこでストック。
グルコースからグリコーゲンに変換・ストックされるか、グルコースから脂肪酸に変換→中性脂肪となります。こうして糖質も中性脂肪になりますが、食事から摂った中性脂肪よりは、 中性脂肪にはなりにくい糖質→中性脂肪より、中性脂肪→中性脂肪の方が、無駄な労力が少なくラクだということですね。グルコースは水に溶けますので、肝臓で利用されなかったグルコースは 血液に馴染んで、カラダ中を巡回 脂肪細胞に取り込まれると 脂肪酸と一緒に中性脂肪を作ります。
血糖はあらゆる細胞の基本的なエネルギー源ですので、血糖値は一定の範囲内に保たれています。ここで重要な役割を果たすのが、膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンという二つのホルモンです。β細胞から分泌されるインスリンは血糖値を下げ、α細胞から分泌されるグルカゴンには血糖値を上げる働きがあります。
なかでもインスリンは脂肪の蓄積と関わりが深いホルモンです。血糖はエネルギー源として大事ですが、そのままでは細胞に取り込みにくい。そのためには特別な仕組みが必要になります。 インスリンはこの仕組みをオンにして筋肉や肝臓、脂肪細胞への血糖の取り込みシグナルを出し、 血糖値を正常レベルまで下げてくれます。筋肉や肝臓ではグリコーゲンというストック型の糖質にそして脂肪細胞では脂肪酸とカップリングして中性脂肪に合成して保管することになります。
グルコースを脂肪細胞に取り込むには 「糖輸送担体 GLUT4」(Glucose transpoter4)という (GLUTは1~4まであり、4は脂肪組織と横紋筋(骨格筋と心筋)にあります)
シャトルバスのようなものが必要になります。
GLUT4は普段脂肪細胞の中の方にいるのですが、細胞がインスリンの刺激を受けると 細胞膜の表面に移動して グルコースを盛んに取り込みます。さらにインスリンは脂肪酸を脂肪細胞に運ぶ働きや脂肪酸から中性脂肪を合成する際に酵素の活性を上げて脂肪の合成を促進します。
☆実は、運動による刺激は、インスリンの刺激なしにこのGLUT4を活性化(リン酸化)して グルコースの取り込みと代謝を可能にします。これがいわゆる「運動の急性効果」です!
インスリンがうまく働かない状態でも運動すると速やかにグルコースの取り込みと代謝を促すことができるんです。すごいことに。
これにはAMPK(5'AMP-activated protein kinase)
(これも別の機会にお話します) の活性化が重要な働きを果たしています。
ゆっくり消化される穀物のでんぷんより、甘いものに含まれるショ糖やグルコースは、血糖値を急に上げるので(いわゆる高GI)、インスリンの過剰分泌を引き起こして、結局脂肪蓄積が促進されます。そして太りやすくなります。
加えてインスリンの過剰分泌を続けると膵臓が疲弊してしまいます。いわゆるムチで打たれた競走馬のような状態です。疲弊した膵臓はインスリンの分泌力が低下、今度は血糖値が下がらないようになってしまい、これは皆さんご存知の糖尿病です。
脂肪組織には皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、ここ数年注目されているのが、それ以外の場所に溜まる脂肪 「第3の脂肪」でこれを異所性脂肪といいます。本来ごく少量しか含まれていない場所に溜まった脂肪です。
この異所性脂肪の代表は「脂肪肝」
肝臓には食事から摂った脂肪や糖質から合成された中性脂肪が、通常3~5%ほど溜まっていますが、これが30%以上まで増えた状態が脂肪肝です。肝細胞の機能が下がり、 肝炎や肝硬変の引き金となります。
脂肪肝というとアルコールが連想されます。アルコールは高カロリーで、飲みすぎると カロリー過多になり、あぶれた糖質や脂質が肝臓で中性脂肪として溜まりやすい。こういったことから脂肪肝=お酒好きという図式だったのですが、最近はお酒を飲まない方にも脂肪肝が増えています。
これがいわゆるNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)です。NASHのリスクファクターは果糖の摂りすぎです。 果糖は、他の糖質と代謝のルートが異なり小腸から吸収されて門脈から肝臓へ直行、 その80%ほどがその場でダイレクトに中性脂肪に変換されます。 さらに果糖は筋肉で脂肪を代謝するプロセスも阻害。脂肪合成をアップ↑ 脂肪分解をダウン↓生の果物を適量とるならそれほど問題ありませんが、果糖リッチな濃縮還元タイプのフルーツジュースや 甘味料として 果糖を大量に含む清涼飲料水のがぶ飲みなんてかなり危険です。
次回予告 「LTレベルをヤマに活かす」っていうお話に入っていく つもりが、 今回もそこまでたどりつけず、その前のエネルギー源としての脂肪の話が、中心に なっていまいました。
次回、LT レベルを活かして 運動で糖・脂肪を燃やし、さらに筋繊維を遅筋繊維に転換していき、 さらに動きやすい身体に変えていきます!
登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.1
登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.2
登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です! VOL.3. 山で使う筋肉の話
登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.4 「 LT レベルを守る 」
登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.5 「 LT レベルをヤマに活かす① 」
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登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.7 「 LT レベルをヤマに活かす③ 」
登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.8 EXERCISE & PGC-1α
なかでもインスリンは脂肪の蓄積と関わりが深いホルモンです。血糖はエネルギー源として大事ですが、そのままでは細胞に取り込みにくい。そのためには特別な仕組みが必要になります。 インスリンはこの仕組みをオンにして筋肉や肝臓、脂肪細胞への血糖の取り込みシグナルを出し、 血糖値を正常レベルまで下げてくれます。筋肉や肝臓ではグリコーゲンというストック型の糖質にそして脂肪細胞では脂肪酸とカップリングして中性脂肪に合成して保管することになります。
グルコースを脂肪細胞に取り込むには 「糖輸送担体 GLUT4」(Glucose transpoter4)という (GLUTは1~4まであり、4は脂肪組織と横紋筋(骨格筋と心筋)にあります)
シャトルバスのようなものが必要になります。
GLUT4は普段脂肪細胞の中の方にいるのですが、細胞がインスリンの刺激を受けると 細胞膜の表面に移動して グルコースを盛んに取り込みます。さらにインスリンは脂肪酸を脂肪細胞に運ぶ働きや脂肪酸から中性脂肪を合成する際に酵素の活性を上げて脂肪の合成を促進します。
☆実は、運動による刺激は、インスリンの刺激なしにこのGLUT4を活性化(リン酸化)して グルコースの取り込みと代謝を可能にします。これがいわゆる「運動の急性効果」です!
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これにはAMPK(5'AMP-activated protein kinase)
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加えてインスリンの過剰分泌を続けると膵臓が疲弊してしまいます。いわゆるムチで打たれた競走馬のような状態です。疲弊した膵臓はインスリンの分泌力が低下、今度は血糖値が下がらないようになってしまい、これは皆さんご存知の糖尿病です。
脂肪組織には皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、ここ数年注目されているのが、それ以外の場所に溜まる脂肪 「第3の脂肪」でこれを異所性脂肪といいます。本来ごく少量しか含まれていない場所に溜まった脂肪です。
この異所性脂肪の代表は「脂肪肝」
肝臓には食事から摂った脂肪や糖質から合成された中性脂肪が、通常3~5%ほど溜まっていますが、これが30%以上まで増えた状態が脂肪肝です。肝細胞の機能が下がり、 肝炎や肝硬変の引き金となります。
脂肪肝というとアルコールが連想されます。アルコールは高カロリーで、飲みすぎると カロリー過多になり、あぶれた糖質や脂質が肝臓で中性脂肪として溜まりやすい。こういったことから脂肪肝=お酒好きという図式だったのですが、最近はお酒を飲まない方にも脂肪肝が増えています。
これがいわゆるNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)です。NASHのリスクファクターは果糖の摂りすぎです。 果糖は、他の糖質と代謝のルートが異なり小腸から吸収されて門脈から肝臓へ直行、 その80%ほどがその場でダイレクトに中性脂肪に変換されます。 さらに果糖は筋肉で脂肪を代謝するプロセスも阻害。脂肪合成をアップ↑ 脂肪分解をダウン↓生の果物を適量とるならそれほど問題ありませんが、果糖リッチな濃縮還元タイプのフルーツジュースや 甘味料として 果糖を大量に含む清涼飲料水のがぶ飲みなんてかなり危険です。
次回予告 「LTレベルをヤマに活かす」っていうお話に入っていく つもりが、 今回もそこまでたどりつけず、その前のエネルギー源としての脂肪の話が、中心に なっていまいました。
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