☆【METGLUCOメトグルコ®錠】(Re.) Today’s medicine Vol.4

薬剤師の視点で臨床現場でキーとなる薬剤を紹介していきます

2015年6月20日 第4回

【メトホルミンMetformin商品名メトグルコ®METGLUCO 】

(Reconstruction)




1961年メルビン®として発売されて以来、長く不遇の時代を過ごしてきたが、1998年UKPDSにおいて圧倒的な優位性が示されて以来、見事に2型糖尿病の第1選択薬に躍り出た古くて新しい薬。2010年1月 メトグルコ®として新たに発売。2012年8月 新たに高用量製剤の500mg錠が発売。利便性が向上。2015年1月  晴れて発売5周年を迎えた。


METGLUCO 名称の由来
一般名の「Metformin:メトホルミン」+導入先である Merck Santé 社(フランス)の販売名「Glucophage:グルコファージ」 



【UKPDS】34&80

Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group.
Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65.

☆これなくしてメトホルミン(メトグルコ®)は語れない。

決定打となったイギリスにおける大規模臨床試験。特に肥満の2型糖尿病患者において糖尿病関連合併症や全死亡率を低下させる点においてメトホルミンの優位性が示された試験。



☆そしてこのUKPDS34の試験終了後の10年間の追跡調査結果がこちら(UKPDS80)
10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.
N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1577-89.
試験終了に伴い治療介入が行われなくなったために血糖コントロールについては対照の従来療法群とメトホルミン群の間で差がなくなっているが、合併症の抑制についてはメトホルミン群が有意に優れており、2型糖尿病治療の「長期予後」において重要な知見を与える結果となった。

当初から強化療法を行った群では、細小血管障害とともに全死亡や心筋梗塞の有意な抑制効果いわゆる“Legacy effect(遺産効果)”が示された。血糖が高いと死亡および心筋梗塞リスクが上昇すること、また血糖管理によるこのLegacy effectが認められたこと、エビデンスレベルが高いメタアナリシスで強化療法の優位性が実証されたことから、心血管イベントを防ぐためには早期から血糖コントロールに努める必要性が認識された。

メトホルミンはその作用機序から二次無効を来しにくく、長期にわたって良好な血糖コントロールが維持されることや体重増加を来しにくいこと、あるいは抗酸化作用や食欲抑制など血糖低下を超えた「多面的作用」をもつことも寄与していると考えられている。


POINT
治療初期の厳格な血糖管理が後年の細小血管障害や心筋梗塞などの大血管障害を引き続き減少させていることが報告されている。このことは,"metabolic memory"とも呼ばれ,注目を集めている。
UKPDS 80は,当初のトライアルに参加した患者を10年後に再調査したものである。SU-インスリンでの強化療法群では従来療法群に比べて,トライアル終了後血糖管理の差がなくなっていたのにもかかわらず,細小血管障害や心筋梗塞の発症や糖尿病関連死や全死亡が有意に減少していた。肥満者で行われたメトホルミン治療群でも,細小血管障害を除いて,ほぼ同様の効果が認められた。トライアル中の減少度と10年を経て今回認められた減少度とはほぼ同程度か,なかには勝るものもみられる。今回は,著者らは"legacy effect(遺産効果)"と呼んでいる。どのような機序でこのようなベネフィットがもたらされるのか不明であるが,高血糖で生じたAGE(後期最終生成物)が血糖を低く保つことで分解され消失することなどが心血管系によい影響を与える可能性も挙げられる。いずれにしても,糖尿病治療において早期に厳格な血糖コントロールに取り組むことがいかに大切かということを改めて示した重要な報告である。
【糖尿病トライアルデータベース 片山茂裕先生



☆肥満でない患者で他剤の優位性を強く示す研究は今のところなし。

☆肥満でない患者でメトホルミンが他剤と同様に効果的であるとするSTUDYがこちら。

Long-term efficacy of metformin therapy in nonobese individuals with type 2 diabetes.
Diabetes Care. 2006 Nov;29(11):2361-4.

☆さらに関連として
Comparative effectiveness of sulfonylurea and metformin monotherapy on cardiovascular events in type 2 diabetes mellitus: a cohort study.
Ann Intern Med. 2012 Nov 6;157(9):601-10. 
2型糖尿病患者における心血管イベントリスクをメトホルミンとスルホニルウレア尿素薬(SU薬)で比較したSTUDY。これによりSU薬の方がメトホルミンと比較して心血管イベントリスクが高いことが、明らかとなり、SU薬を糖尿病治療の第1選択薬から引きずりおろすきっかけとなった。

Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors for treatment of type 2 diabetes mellitus in the clinical setting: systematic review and meta-analysis.
BMJ. 2012 Mar 12;344:e1369. doi: 10.1136/bmj.e1369.
これはDPPⅣ阻害薬がメトホルミンに比してHbA1cの低下効果が低いとするメタ解析。心血管イベント予防などを考慮に入れていないもののメトホルミンでなくあえてDPPⅣ阻害薬を第1選択とする理由は見当たらない。

(一部出典:内科診療ストロング・エビデンス 谷口敏文著 医学書院、大日本住友製薬関連情報サイト)




The History of Metformin

ガレガソウ:Galega officinalis
メトホルミンの歴史は古く 中世ヨーロッパの時代までさかのぼる。生薬としてのガレガソウが起源。ガレガソウ(別名:フレンチライラックあるいはゴーツルー学名:Galega Officinalis L.)は、ヨーロッパにおいて湿地や低地に分布する多年草マメ科の植物。
血糖を下げる作用により多尿や口渇などの糖尿病症状を緩和する作用があることがこの当時から知られていた。
1918年、エール大学病理化学の C. K. ワタナベにより、ガレガソウの抽出物である「グアニジン」に血糖降下作用があることが報告される。しかし、グアニジンそのものは毒性が強く、そのままでは薬として使用できず、また1926年、フランク.Eらはグアニジン化合物の「ジンタリン」を開発したが、これも肝臓に対して毒性が認められ、その後開発は中止されていた。1950年代後半になると、グアニジン誘導体である「フェンホルミン」、「ブホルミン」、「メトホルミン」の3つのビグアナイド系薬剤(通称BG薬)が、相次いで開発され、糖尿病治療薬の第一選択薬として広く使用されるようになった。

日本においては、1954年にフェンホルミンが、1961年にはメトホルミン(メルビン®)も発売となった。しかし、1977年に米国でフェンホルミンでの重篤な副作用の乳酸アシドーシスが続いたため多くの国々で発売が中止され、これを契機に、BG薬は糖尿病治療薬の第一選択薬としての座を
引きずり下ろされることとなった。

Metformin: N,N-dimethylimidodicarbonimidic diamide


日本でも、1977年以降メトホルミンとブホルミンは投与量が制限され、「SU薬が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合」と条件が付けられたことにより、使用頻度が減少。

その後1980年代後半になるとBG薬のメカニズムの解明が進み「メトホルミンの再評価」が行われ、1993年にはメトホルミンがヨーロッパで糖尿病に対する第一選択薬に位置づけられた。

そして前述の1998年のイギリスでの大規模臨床試験であるUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)により、メトホルミンの有効性が明らかとなった。

さらに2002年の米国での大規模糖尿病予防プログラム(DPP:Diabetes Prevention Program)により「生活習慣改善群、メトホルミン群ともに性別、人種・民族によらずほぼ一定に糖尿病発症を予防または遅延させる効果がある」ことが示された。

How do Metformin works?
メトホルミンの大きな作用は以下の3つ

① Glucoseの吸収抑制
② 肝での糖新生の抑制
③ インスリン抵抗性の改善

さらに付加作用として
・ LDLの低下作用 や 
・ 脂肪酸β酸化の増加作用によるTG(中性脂肪)の低下作用などを示す。
① Metformin の 腸におけるGlucoseの吸収抑制メカニズム
② Metformin の 肝での糖新生抑制メカニズム
③ Metformin の 骨格筋等でのインスリン抵抗性改善作用
この大きな3つの作用には、
すべて AMPK(5' AMP-activated protein kinase: AMP活性化キナーゼ)が関わっている。 
すなわちメトホルミンはAMPKを活性化することで多彩な作用を発揮する。
このAMPKは運動生理学上でも非常に重要なキーワードとなっている。

AMPKは、酵母から人間まで広く真核生物の存在する酵素であり、AMP量に応じてATPを合成する働きから【細胞内のエネルギーセンサー】として機能している。
このAMPはアデノシン1リン酸の略称。「生体のエネルギー通貨」であるATP(アデノシン3リン酸)はATP → ADP → AMP とリン酸を減らす過程で、エネルギーを放出してAMPとなるが、細胞内でATPが枯渇した状態、言い換えるとAMP:ATP比が上昇した状態 を察知してAMPKは活性化される。すなわち本来はカロリーコントロールや運動などで 活性化するAMPKをメトホルミンの薬理作用によって活性化することとなる。

④ Metformin の LDL-Cholesterol低下作用
⑤ Metformin の 脂肪酸β酸化促進作用
LDL-Cho低下作用および脂肪酸β酸化促進作用においてもAMPKの活性化が関わってくる。
AMPKは脂肪酸やコレステロールの合成に必要なAcetyl-CoA carboxylase (ACC)とHMG-CoA還元酵素(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase)の活性を阻害する。
HMG-CoA還元酵素はコレステロールやイソプレノイドを合成するメバロン酸経路の律速酵素の一つでこの酵素の阻害剤はスタチン (Statin)でありこれも長年臨床応用されている。

Statinに関する詳細は
Today's medicine ☆【CRESTORクレストール®錠】 Rosuvastatin,Ranking of Statinsを参照


AMPKはスタチンと同じくHMG-CoA還元酵素を阻害してメバロン酸の合成を阻害。メバロン酸はコレステロールの合成に必要なだけでなく、糖たんぱくの合成やGTP結合タンパク質(Gタンパク質)のイソプレニル化に必要な物質(geranylpyrophophateやfarnesylpyrophosphate)の生成に必要となる。


Anticancer activity of Metformin

近年はこれらメトホルミンの多彩な作用に着目し抗がん作用を期待する報告もあがっている。
メトホルミンの抗がん作用についての詳細は、
Metforminメトホルミン【メトグルコ®】その抗ガン作用 知って得する「クスリ」の話 Vol.3 を参照。



メトホルミンには、
ミトコンドリアの酸化的リン酸化を阻害(複合体Ⅰの阻害) してATPを減少させる作用(①
(ATPの減少すなわちAMP/ATP比の増加)と
 LKB1(liver kinase B1)を介してAMPKを活性化する作用(②)が知られている。


そしてこのAMPKの活性化によりインスリンおよびインスリン様成長因子-1(IGF-1)
によって活性化されるPI3K/Akt/mTORシグナル伝達系
mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質: mammalian target of rapamycin)の活性を阻害するAMPKを活性化することによって、インスリンおよびIGF-1による増殖刺激を抑制する。

すなわちこのPI3K/Akt/mTOR経路の阻害によってがん細胞の増殖を抑制できると期待される。

さらにAMPKは、肝臓の糖新生に関与する酵素の発現を抑制し、筋肉細胞や脂肪細胞のグルコースの取込みを促進し、細胞のインスリン感受性を高めることによってインスリン濃度を減少させる。そしてAMPKはHMG-CoA還元酵素とアセチルCoAカルボキシラーゼを阻害することによって
脂質合成を阻害する。またAMPKはがん抑制因子であるp53の活性化を介して、がん細胞の増殖を抑制することも報告されている。

こうした総合的な作用によってメトホルミンは がんの発生や増殖を抑制する効果があると考えられている。
出典:日経メディカル
Side effect of Metformin
【乳酸アシドーシス発現のメカニズム】
ただし日本で用いられている臨床用量で乳酸アシドーシスが起きる頻度は
かなり低いと考えられる。もちろん腎機能等に問題がある場合等は例外。

そのほかに注意したいのがVitaminB12欠乏や葉酸欠乏
メトグルコの適性使用情報の詳細はこのリンクを参照


【最後に製品としてのメトグルコ®の感想】


メトグルコ®錠250mg
直径(mm)9.1 
厚さ(mm)4.0 
重さ(mg)270.5














メトグルコ®錠500mg
長径(mm)15.8  
短径(mm)7.3  
厚さ(mm)5.7  
重さ(mg)538



































250mg~最大用量の2250mg/日まで線形な体内動態

投与開始後2~4日で定常状態 蓄積性・残留性なし

食事の影響ほぼなし(最大のパフォーマンスが得られるよう食直前の服用がスジ)

バイオアベイラビリティ(BA%)は50~60%でおおむね良好。

相互作用については他のDM薬との併用に伴う低血糖に注意は必要だが、

Mechanism Based な相互作用発現リスクはほぼなし。

代謝は受けずそのほとんどが未変化体として尿中排泄

これは好ましいプロファイルだが、裏を返せば腎機能低下例への投与に細心の注意が要る。
すなわち高齢者には使いづらい。 
腎機能低下→排泄の遅延→血中濃度上昇→そして乳酸アシドーシス発現リスクの増大となって
跳ね返ってくる。このため75際以上の高齢者の最大用量は1500mg/日

製剤的にも剤型サイズが大きく高齢者には飲みづらい。


粉砕投与・一包化は可能(オルメテックと一緒に一包化して高温多湿条件化で保存すると

メトグルコ®が変色することが報告されているけれど だから何なの?No Problem)

こうしてみると

UKPDS34&80で得られたLegacy effect(遺産効果)が最大限得られるよう
若年例からのFirstChoice・早期介入症例に応じて迷わず用量アップが最も望ましい使い方。



【 METGLUCO メトグルコ®まとめ 】



有効性 ★★★★★  豊富で優れたエビデンス。惜しむらくは日本人での(高用量)データがもうすこし欲しい。Take METGLUCO as soon as possible !!

安全性 ★★★★  使い方さえ間違えなければ非常に安全な薬剤。Check the Renal function & Age !!

利便性 ★★★     500mg製剤が発売されて利便性が向上。ただし250mg・500mg共、
剤型サイズが大きい。このため通常成人御用達。 

動態力 ★★★★   代謝受けない・最大用量まで線形・食事の影響受けない・・・etc。It's beautiful linear pharmacokinetics.

経済性 ★★★★★  これ以上ないコストパフォーマンス!文句のつけようなし!!
THE ”費用 対 効果” Best cost performance 

総 合 ★★★★★  長い不遇の年月を経てきたからこその価値がある 【温故知新】
 "an attempt to discover new things [truths] by studying the past through scrutiny of the old"

※注意 まとめ・評点は個人の勝手な意見です

追記
ジェネリック情報
6月19日、平成27年6月薬価基準追補収載として、
・クロピドグレル;プラビックス(サノフィ)
・ゾルミトリプタン;ゾーミッグ(アストラゼネカ)
・ナフトピジル;フリバス(旭化成)
メトホルミンMT;メトグルコ(大日本住友)
・レトロゾール;フェマーラ(ノバルティス)

などが薬価収載されました

詳しくはこちらのサイトさん(薬剤師Mのホンネ日記さん)が詳しいのでリンクです