3月30日【麻薬に関する単一条約】調印

3月30日 1961年の今日この日 麻薬に関する単一条約調印




麻薬に関する単一条約

千九百六十一年の麻薬に関する単一条約
通称・略称麻薬単一条約
署名1961年3月30日(ニューヨーク
寄託者国際連合事務総長
条約番号昭和39年条約第22号
言語中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語
関連条約向精神薬に関する条約麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約
条文リンク条約本文 - 国立公文書館デジタルアーカイブ
テンプレートを表示
千九百六十一年の麻薬に関する単一条約を改正する議定書
通称・略称麻薬単一条約改正議定書
署名1972年3月25日(ジュネーヴ
効力発生1975年8月8日
寄託者国際連合
条約番号昭和50年条約第22号
言語中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語
条文リンク1 (PDF) 、2 (PDF) 、3 (PDF) - 外務省
テンプレートを表示
麻薬に関する単一条約
(Single Convention on Narcotic Drugs)
主に麻薬の乱用を防止するため、医療や研究などの特定の目的について許可された場合を除き、これらの生産および供給を禁止するための国際条約。
日本の大麻取締法の根拠となっている。1961年に採択され、日本は1964年に加盟した。略称は、麻薬単一条約。第二次世界大戦後、解体した国際連盟による万国阿片条約を、国際連合および世界保健機関が引き継いだことによって締結された条約である[1]。規制失敗の声が挙がっている[2]

後続の条約である、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約の第1条n項にある通り、この条約において規定されるものが条約上の麻薬である。


目的は条約の前文にある通り、「人類の健康と福祉への懸念[3]」から発しており、医療上の苦痛軽減のための麻薬の使用を確保し、学術上の目的に制限した上で、麻薬への中毒が個人にとって重大な害悪であり[4]社会や経済的に危険であるので、その乱用に効果的に対抗するために[5]国際協力を必要とし、この目的の達成のために麻薬統制を国際連合の権限として認め国際協力するというものである。本条約は、麻薬大麻コカインを規制している。

制定

本条約の検討と制定以降に、新たに覚醒剤トランキライザーの乱用が国際的な懸念となり、結果としてこうした向精神薬を規制する1971年の向精神薬に関する条約が制定された。

規制物質

代表的には、以下のようなものを規制している[6]

付表I :モルヒネヘロインメタドンあへんコカイン大麻、大麻樹脂など106種。 

付表II :コデインジヒドロコデイン、エチルモルヒネ 

付表III :コデインなどのうち、用量の規定を満たしたもの。 

付表IV :付表Iに含まれ同様の統制措置をとる17種。大麻やヘロインなど。

本条約第2条5項(a)にあるように、付表IVが特に危険な特性のため特別な統制措置を求めるものであるが、第2条5項(b)が例外にするように、臨床試験を含む医療や学術上の研究を除外している。

「大麻」とは、本条約の第1条(b)により、カンナビス属の植物における、樹脂の抽出されていない花または果実のついた枝端であり、種子や葉は除外され、本条約の第28条2項により、繊維および種子に関する産業上および園芸のための栽培には適用されず、第28条3項によりその葉が悪用される場合には必要な措置をとることに関する。

本条約第30条(b)(i)および(ii)は、個人の治療に関して、処方せんを要して施用するための規定である。

大麻の成分であるデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(デルタ-9-THC)については、後続の条約である向精神薬に関する条約が規定する。

刑罰規定

本条約第36条が、流通・生産、所持が故意に行われた時には処罰すべき犯罪とみなし、特に重大な場合においては拘禁といった自由をはく奪する措置を確保することに関する。

中毒者への措置

本条約第38条は、薬物中毒の治療(Treatment of drug addicts)に関するものであり、1項が、医療的な治療と回復[7]のための施設を用意することに関してであり、2項は、問題が深刻な場合には経済的な資源が許すかぎり、効果的な治療のための施設を設置することに関している。

なお、addctionの語は、条約の邦訳文では中毒と訳されているため、本記事はこれに準じている。日本の麻薬及び向精神薬取締法においても中毒の語が用いられ、日本の法律上は嗜癖に近い意味である[8]。現行の医学的にはaddictionは嗜癖と訳される[8]。中毒の語は、医学的に大量摂取時などの有害作用を指すためである[8]

また、addictionの用語は、世界保健機関により定義があいまいであるとされ、誤用されるので専門用語から除外された[9]。後続の条約である、1971年の向精神薬に関する条約では、乱用依存症の語が用いられている。

規制の失敗

麻薬戦争」も参照

公布から50年が経過した2011年、薬物政策国際委員会は、麻薬に関する単一条約からはじまる薬物戦争が失敗に終わったことを宣言し、大麻の合法化の検討といった薬物政策の見直しを求めた[10][2]。条約は、「人類の健康と福祉」を目的としているが、成功をもたらしていない[11]。規制した薬物の消費量は増大してきた[11]。規制は、巨大な犯罪闇市場に利益をもたらし成長させてきており、薬物使用者は烙印を押され治療から疎外されている[12]。厳しい刑罰が薬物の使用を抑制するという仮説は反証されており、非犯罪化などの寛容政策をとった国々の使用率や依存率は上昇しておらず、より厳しい政策をとっている国々のほうが薬物の使用による問題が大きい[13]。それに加え、禁止は合成カンナビノイドといった合法ドラッグの市場をにぎわせている[14]


50年前のわずかな科学的な証拠に基づいて設計された薬物の相対的な有害性による現行のスケジュールの指定は、明白な異常をもたらし、特に大麻やコカの葉では現在では誤ってスケジュールが指定されている[15]。スケジュールIの指定は、医療大麻のような治療的な利用に対する影響を研究することを困難にしている[16]

2013年の国連の薬物乱用防止デーにおいて、法の支配は一部の手段でしかなく、罰することが解決策ではないという研究が進んでおり、健康への負担や囚役者を減らすという目標に沿って、人権や公衆衛生、また科学に基づく予防と治療の手段が必要とされ、このために2014年には高度な見直しを開始することに言及し、加盟国にはあらゆる手段を考慮し、開かれた議論を行うことを強く推奨している[17]

2016年4月には、国連薬物特別総会(UNGASS:UN General Assembly Special Session on Drugs)2016が開催される[18]。以前の総会は1998年に開催され、加盟国には非現実的な「薬物のない世界」という目標が課されたが、犯罪や暴力が薬物の使用によるものではなく規制の結果であることが示されてきており近年では大麻の合法化など制限を緩めている国があり、また犯罪を強調することが人権侵害を引き起こしているなど、見直しの必要性が挙げられている[18]

脚注

[ヘルプ]
  1. ^ 松下正明(総編集) 1999, pp. 109-110.
  2. a b 薬物政策国際委員会 2011.
  3. ^ 麻薬に関する単一条約 原文:Concerned with the health and welfare of mankind
  4. ^ 麻薬に関する単一条約 原文:Recognizing that addiction to narcotic drugs constitutes a serious evil
  5. ^ 麻薬に関する単一条約 原文:Considersing that effective measures against abuse of narcotic drugs
  6. ^ 松下正明(総編集) 1999, pp. 110-111.
  7. ^ 麻薬に関する単一条約 原文:medical treatment, care and rehabilitation of drug addicts
  8. a b c (編集)日本緩和医療学会、緩和医療ガイドライン作成委員会 「薬理学的知識」『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』 金原出版、2010年6月20日、第1版;2010年。ISBN 978-4-307-10149-3
  9. ^ 世界保健機関 (2003). WHO Expert Committee on Drug Dependence - Thirty-third Report / WHO Technical Report Series 915 (Report). World Health Organization. pp. 22.
  10. ^ “「世界的な麻薬戦争は失敗」 国際委員会が別の対策を勧告(字幕・2日) (1:31)”REUTERS. (2011年6月4日2013年4月8日閲覧。
  11. a b 薬物政策国際委員会 2011, p. 4.
  12. ^ 薬物政策国際委員会 2011, p. 9.
  13. ^ 薬物政策国際委員会 2011, p. 10.
  14. ^ Rolles, Stephen; Kushlick, Danny (October 2014). “Prohibition is a key driver of the new psychoactive substances (NPS) phenomenon”Addiction 109 (10): 1589–1590.doi:10.1111/add.12543PMID 25163705.
  15. ^ 薬物政策国際委員会 2011, p. 12.
  16. ^ Nichols, David E.; Nutt, David J.; King, Leslie A. (August 2013). “Effects of Schedule I drug laws on neuroscience research and treatment innovation”. Nature Reviews Neuroscience 14 (8): 577–585. doi:10.1038/nrn3530PMID 23756634.
  17. ^ 国際連合 (2013年6月26日), “Secretary-General's remarks at special event on the International Day against Drug Abuse and illicit Trafficking” (プレスリリース) 2013年11月13日閲覧。
  18. a b Christopher Ingraham (2015年5月5日). “Global drug policy isn’t working. These 100+ organizations want that to change.”Washington Post 2015年9月20日閲覧。

参考文献

  • 松下正明(総編集) 「IV 国際向精神薬条約」『薬物・アルコール関連障害』 編集:牛島定信、小山司、三好功峰、浅井昌弘、倉知正佳、中根允文、中山書店〈臨床精神医学講座8〉、1999年6月、109-123頁。ISBN 978-4521492018
  • 薬物政策国際委員会 (2011). War on Drugs. The Global Commission on Drug Policy.

関連項目

外部リンク

  • 本条約和訳:1 (PDF) 2 (PDF) 3 (PDF) (外務省)