2016年4月14日【平成28年(2016年)熊本地震】発生→4月16日本震発生

地震で瓦が落下した熊本城=15日午前、熊本市[時事通信ヘリより]  撮影日:2016年04月15日






























脱線した九州新幹線

内陸活断層、横ずれ 浅い震源、余震に警戒 熊本・益城で震度7

熊本県を震源とする強い地震が14日夜から15日未明にかけて相次いだ。震度7を記録したのは、1995年の阪神大震災以降4回目となる。内陸にある活断層型の地震だったため震源が浅く、規模のわりに揺れが大きくなって被害につながったとみられる。

「今後、震度6弱程度の余震が1週間は続くので、警戒して欲しい」。14日夜、気象庁の青木元・地震津波監視課長は会見で呼びかけた。

気象庁によると、今回の地震は活断層の活動による横ずれ断層型。2011年の東日本大震災のようなプレートの境界で発生する海溝型地震とは異なる。

今回起きた地震のしくみ

熊本県には、阿蘇外輪山西斜面から南西方向に、布田川(ふたがわ)断層帯と日奈久(ひなぐ)断層帯がある。この断層は合計で全長約101キロと九州最長。北西側に熊本市がある。

岡田篤正・京都大名誉教授は、震源とみられるこれらの断層帯について、「九州を北東から南西方向に斜めに横切る非常に重要な活断層。地震が起こる可能性が注目されてきた」と指摘する。「地震の深さも浅く、活断層と地震の関連を示している。このあたりの活断層ならば北西側が低下し、南東側が上がる。地表に地震断層が出ている可能性もあり、周辺は震度が大きくなる傾向がある」

最大震度7を記録した本震の後、15日午前1時までに震度3以上の余震が24回発生した。

一般的に震源の浅い地震は余震が多くなる傾向がある。地震予知連会長の平原和朗・京都大教授(地震学)は、「断層の北東部が動いた今回の地震によって、(政府の地震調査研究推進本部が今回よりも規模の大きい)マグニチュード(M)7・6程度と予想する中部の断層とM7・2程度が予想される南西部の断層帯が連動して動く可能性は否定できない。今後の余震の広がりに注意する必要がある」と話す。

今回の地震と阿蘇山の火山活動との関係について気象庁の青木課長は「直接の関連は今のところない」と話した。

政府の地震調査研究推進本部の資料によると、熊本県には布田川断層と日奈久断層帯のほかにも複数の断層があり、過去にはこれらの周辺で地震が発生している。

以前に熊本市付近に被害を及ぼした地震としては、1889年のM6・3の地震が知られる。市街地の直下で発生、死者20人、400棟以上の家屋が全・半壊した。これ以外に、1625年、1723年、1848年、1907年にもM5~6の地震が発生している。

■局所的に大きな被害

東日本大震災以来の震度7の大きな揺れは、なぜもたらされたのか。

気象庁が発表した地震の規模はM6・5、震源の深さは11キロだった。「規模に比べて震度が大きい」と京都大防災研究所の飯尾能久教授は指摘。広島大の中田高名誉教授(変動地形学)は「震源が浅かったため、局所的に大きく揺れたのだろう」と話す。

東京大地震研究所の古村孝志教授(地震学)は今回の揺れについて「震源付近では、強く突き上げる揺れが短時間起きた。震源が浅く、震源から離れると揺れが急激に小さくなった」と説明する。

気象庁が発表した本震の震度分布図によると、震度7を観測したのは1カ所。その周辺は6強ではなく6弱だった。

山岡耕春・名古屋大地震火山研究センター長は「地震の規模や熊本市内の様子をテレビの中継で見た限り、阪神大震災のように断層が本格的に動いたわけではないようだ」という。「震度7を観測した場所は、動いた断層の真上か地盤が悪い場所だったのか理由があったのでは」。2014年の長野県北部の地震(M6・7)でも、観測された震度は最大で6弱だったが、震度7と推定された場所もあった。

被害との関係は詳しい調査をしなければわからない。盛り土や、かつて湿地だったところなど地盤が悪いところに被害が集中することはよくある。

安田進・東京電機大教授(地震・地盤工学)は「被害があったとされる益城町役場付近の住宅が建つ場所は比較的地盤は悪くない。ただ、そこから南の秋津川周辺からは地盤が軟弱になるところだ」と指摘する。

気象庁が観測を始めてから震度7を記録した地震は、過去に3回ある。1995年1月に起きた阪神大震災(M7・3)は都市部を襲った地震では戦後最大で、建物のほか新幹線の線路や高速道が崩壊した。家屋の倒壊や火災で死亡者は6千人以上に上った。

2004年10月に起きた新潟県中越地震(M6・8)では、最大震度7の揺れが山間地を襲い、死者68人の被害が出た。11年3月の東日本大震災(M9・0)では、宮城県栗原市で震度7を観測。直後の大津波が東日本沿岸を襲い、2万人以上の死者・行方不明者を出し、東京電力福島第一原発の事故を招いた。

■川内・玄海原発「異常なし」

原子力規制委員会によると、全国で唯一稼働している九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に異常の報告はなく、運転を続けた。空間線量にも異常はないという。九電玄海原発(佐賀県玄海町)でも異常はなかった。

鹿児島県は「九電から『異常なし』との連絡が午後9時44分に入った」としている。

四国電力と愛媛県によると、伊方原発(愛媛県伊方町)も異常はなかったという。


(朝日新聞デジタル 2016年4月15日05時00分)


























熊本地震は、最初の地震よりも大きな「本震」が起きたことで災害の姿が大きく変わった。被害は山間部も含め広範囲に及び、強い揺れが相次いだ。東隣の大分県でも地震が活発化している。一体何が起きているのか。さらに東にある活断層への影響はあるのか。
「今までの経験則から外れている」
16日未明に起きたマグニチュード(M)7・3の「本震」の後、熊本県阿蘇地方や大分県でもM5を超える大きな地震が発生したことについて、同日午後に会見した気象庁の橋本徹夫・地震予知情報課長はこう表現した。国内では、14日に発生したようなM6・5規模の活断層型地震の後、それを上回る本震が発生した記録が存在しないという。
気象庁によると、本震は熊本県の布田川(ふたがわ)断層帯で発生したとみられる。この断層帯から北東にある同県阿蘇地方では、午前3時台にM5・8の地震が2回発生。さらに北東の大分県中部でも午前7時すぎにM5・3の地震が起きた。
会見では、これら2カ所の地震活動の高まりは、本震とは独立した別の地震活動であるとの考えを示した。その上で、橋本課長は「地震活動が今後、どのようになっていくかは分からない」と述べた。
M7・3の本震以降、地震の回数も急増した。気象庁によると、16日午前1時までの約30時間に観測した震度1以上の揺れは153回。その後、16日午後3時までの14時間で134回に及んだ。
地震の回数が増えれば、建物が倒壊する恐れも高まる。柱や壁に強い力が加わり、変形して戻ることを繰り返すと、ひび割れや隙間ができる。その結果、建物の外からの力に耐える力が落ちてくるからだ。
現地で調査を続ける福岡大の古賀一八教授(建築防災学)によると、14日の地震で傷んだ建物に16日の本震でさらに力が加わったことで傾いたり倒れたりしていたという。「前日まで柱が1本崩れていたという鉄筋コンクリートの店舗では3本の柱が大破して、倒壊寸前になっていた」
一方、16日の本震では阿蘇山周辺で起きた土砂崩れが住宅を巻き込んだ被害をもたらした。付近は溶岩でできた岩盤の上に、「スコリア」と呼ばれる数ミリから数センチの黒い軽石が積もった一帯。もともと土砂崩れが起きやすい。
伊藤英之・岩手県立大教授(自然災害科学)は現地の状況について「スコリアの層が崩れる『表層崩壊』の可能性がある」と指摘。スコリアや火山灰が積もった場所が雨で崩れると、土砂と水が混ざり、土石流を起こす恐れもあるという。
■北東・南の活断層に「影響も」
最初の地震は日奈久(ひなぐ)断層帯の北部で起きたが、16日の本震はその北東側の布田川断層帯で起きたとみられる。今後懸念されるのは、さらに別の活断層による地震が誘発される可能性だ。
相次ぐ地震の震源は、「別府―島原地溝帯」と呼ばれ、多数の活断層がある溝状の地形に沿って分布する。さらに北東には、四国を横断し紀伊半島に延びる長大な活断層、中央構造線断層帯が連なる。
林愛明(りんあいめい)・京都大教授(地震地質学)は「今回ずれた断層の延長線上にひずみがたまり、大分県側でM7級の地震が起きることも否定できない。四国側の中央構造線が動く可能性もある」と話す。
地震が起こると、震源になった断層にたまっていたひずみは解消されるが、逆にその周囲や延長線上にある断層のひずみが増えることがある。その影響は、離れた地域にも及ぶ。
東日本大震災の直後には、長野県や静岡県でM6級の地震が起きた。活断層による内陸の地震でも、1992年の米ランダース地震(M7・3)の3時間後に、40キロ離れた地点でM6・4の地震が発生した例が知られている。
今回、地震が起きている領域と重なる大分県の別府―万年山(はねやま)断層帯でも、この断層が動いた慶長豊後地震(1596年)で、前後数日の間に愛媛と京都で大きな地震が起きた記録がある。中央構造線断層帯などの活断層の調査で、これらに対応するとみられる地層のずれも見つかっている。
ただ、四国の中央構造線断層帯の平均活動間隔は千年以上とされる。岡田篤正・京都大名誉教授(変動地形学)は「前回の愛媛の地震から約400年しかたっておらず、ひずみがたまっていないとみられる。四国の中央構造線断層帯の活動が誘発される可能性は低い」とみている。
南西側にも、日奈久断層帯の動いていない部分がある。加藤照之・東京大地震研究所教授は、ほかの断層への影響について「何ともいえない」としつつも「気持ちは悪い。影響もあるかもしれない」。震源が広がる北東方向だけでなく「南にも破壊が延びていく可能性はある」と警告する。
■南海トラフ地震「誘発低い」
今回の地震が、九州から東海地方の沖合で想定されている南海トラフの巨大地震の発生に影響することはあるのか。
今回起きたような内陸の「活断層型地震」は、陸側のプレート内部で起こる。震源が浅いため、小さい規模でも局所的に大きな被害を出すことがある。
これに対し、南海トラフ地震は「海溝型」で、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈みこむ場所で起こる。規模が大きく、広い範囲で大きな揺れや津波被害につながる。
西村卓也・京都大防災研究所准教授(地震学)は「今回の地震が南海トラフ地震を誘発する可能性はあまり考えられない。距離が離れているうえ、今回の地震はM7級と相対的に規模が小さく、影響は非常に小さいとみられる」と話す。
ただし、南海トラフ地震は約100年周期で繰り返されている。南海トラフ地震の前後数十年は、内陸の地震活動が活発化することが知られている。数十年単位でみれば発生は近づいており、備えを進める必要性に変わりはない。


(朝日新聞デジタル 2016年4月16日23時14分)