英国とEU離脱問題 「Brexit」 まとめ









  「まだ、2週間もあるのに……」。13日の東京株式市場では市場参加者の嘆息が広がった。世界の金融市場の関心は6月23日に予定される、欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票に集中している。離脱派が多数を占めた直近の世論調査を受け「市場は最悪のシナリオを織り込み始めた」との声が広がる。日経平均株価の終値は1万6019円18銭と4月12日以来、約2カ月ぶりの安値に沈み、ほぼ全面安の展開だった。週央の米連邦公開市場委員会(FOMC)と日銀金融政策決定会合を前に、日本株市場は週初から一気に警戒モードを高めて始まった。
 この日の金融市場は、債券市場で長期金利が過去最低を更新するなど、英国を震源地とするリスクオフムード一色に塗りつぶされた。前週末の10日、EU離脱の是非を問う英国での世論調査で、離脱支持が残留支持を上回った。金融市場に大きな動揺が走り、10日は欧州株が軒並み大きく売られ、その動きは米国株にも波及していた。流れを引き継いだ13日の東京市場では、低リスク通貨とされる円がドルやユーロに対して買われ、特に対ユーロは約3年ぶりの円高水準を付けた。
 当然、日本株はひとたまりもない。輸出関連株を中心に売られ、日経平均はズルズルと値を下げ、582円安の安値引けとなった。大和証券の石黒英之氏は英国のEU離脱、いわゆる「Brexit(ブレグジット)」に向け、「金融市場が最悪のリスクに備え始めた」とみる。英国がEUから離脱すれば欧州発の世界経済の混乱は避けられない。
 13日は年初来安値を更新した銘柄数が200を超え、4月上旬以来の多さだったが、その中でも目立ったのが「欧州関連銘柄」の下げだ。リコーやニコン、HOYA、コニカミノルタなど精密機器を中心に欧州事業の比率が比較的大きい銘柄に売りが広がった。こうした企業の多くは業績予想の前提となる為替レートを1ユーロ=125円で設定している。120円を突破したユーロ円相場が続けば、業績下振れの要因になりかねない。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「ユーロ安の基調は続きそうで欧州関連株に手が出しにくい状況になった」という。(日経新聞)


欧州連合(EU)は英国が求めていたEU改革案に合意し、英国が一気に離脱に向けて動き出すという事態は回避されました。しかし英国は6月にEU残留を問う国民投票を実施する予定となっており、最終的にどうなるのかはまだ分かりません。英国のEU離脱問題はブレキジット「Brexit」と呼ばれているのですが、英国は何が不満なのでしょうか。
 ブレキジットとは、Britain(英国)とExit(退出する)を組み合わせた造語です。英国人は、英米法という欧州大陸とは異なる極めて民主的な法体系を持ち、ポンドという独自の通貨制度も維持しています。英国人はこうした自国の制度に対して強い誇りを持っており、EUの必要性は理解しつつも、一定の距離を置いた関係を望んでいます。しかし、EUは基本的には国家統合を目指すものですから、EU内で決められたルールは例外なく域内に適用しなければなりません。

英国はドイツと並んで欧州の大国であり、経済運営も順調です。このためドイツと同様、各国から移民が大量に流入しています。英国内の一部からはこれを制限すべきだとの声が上がっていますが、EUのルールとの関係で政策を自由に決められない状況にあります。

EUは巨大な公務員組織を抱えており、その規模や複雑さは、公務員天国と呼ばれる日本をはるかに凌駕するともいわれます。どこの国も公務員は高圧的で杓子定規ですから、自由な競争社会を是とする英国内ではこうした風潮に対する不満も高まっているようです。

結果として顕在化してきたのが、英国のEU離脱問題「Brexit」です。英国は世界でもっとも開かれたグローバル金融市場を運営している国であり、EUに所属していることのメリットは計り知れません。キャメロン首相もそのことはよく承知しており、基本的にはEU残留を主張し続けています。しかし、国内の反EU派の影響力は大きく、キャメロン氏は自身の政権維持と引き換えに国民投票を約束するという賭けに出ました。今のところこの作戦はうまくいっており、2015年の総選挙で保守党は圧勝し、キャメロン氏の政治基盤はより強化されました。

今回、キャメロン氏はEUから大幅な譲歩を引き出したことで、これをお土産に国内でEU残留を説いていくことになります。しかし、キャメロン氏の有力な後継者の一人ともいわれるロンドン市長のジョンソン氏が、EU離脱支持を表明するなど状況は不透明です。

ブレキジットという言葉は最近使われ出したものですが、英国におけるEU懐疑論は当初から存在しています。英国は1975年にもEUの前身である欧州経済共同体(EEC)からの離脱をめぐって国民投票を実施しましたが、この時も、今回と同様、EEC側が妥協案を提示したことで、残留が決まったという経緯があります。見方によっては、ブレキジットは、英国による離脱をちらつかせた少々危険な交渉術ともいえるでしょう。

(The Capital Tribune Japan)