登山Climbingは理想的な有酸素運動です!Vol.7 「 LT レベルをヤマに活かす③ 」

今日の関東は束の間のポカポカ陽気 久しぶりに10kmほどランニング

やっぱり運動で汗をかくって気持ち良いですね!頭も身体もスッキリ 


前回までに 身体がどうやって エネルギーを生み出しているかをご説明してきました

登山やクライミング、ランニングなどの有酸素運動を定期的に続けていると

体脂肪を燃やしやすい体質に変わってきます

筋肉に酸素を運び入れる毛細血管の密度も高くなり、

その酸素を介して脂肪を燃焼させるミトコンドリアの数も増えてくるからです

こうした変化の鍵をにぎるのが、ATPAMPK(AMPキナーゼ)です



脂肪と糖質が細胞の2大エネルギーであり、

その結果生まれるATPが細胞の直接のエネルギー源でした


2大栄養素がどんな感じで燃えているかというと上の図のような感じです

ランニングにしろ登山にしろ 運動開始後の時間経過とともに

消費されるエネルギー源が変わってくることが大事です


さらに運動強度によっても 消費されるエネルギー源が変わってきます

運動強度を高めると消費カロリーが増え、脂肪燃焼量も増えます

ところが強度を上げすぎるとカラダは脂肪を使いにくくなり、糖質の燃焼が増えます

一見 激しい運動ほど脂肪が燃えるんじゃ?と思われるかもしれませんが 実は違うんです

脂肪と糖質それぞれの使用率は運動強度と運動時間で決まってきます

運動強度が低いほど、そして運動時間が長くなるほど

脂肪が燃える割合が高くなってきます

運動強度が高くなると、筋肉のミトコンドリアが求める酸素を十分に供給できなくなるので

脂肪酸から生まれたアセチルCoAは酸素不足で不良在庫となり、

それ以上脂肪酸が消費されにくくなります

また汗をかきすぎないのも大事です 運動強度を上げすぎて汗をかきすぎると

酵素などのタンパクの反応なので筋温が下がってしまうと燃焼効率が落ちてしまいます 

また以前にご紹介した ミトコンドリアにアセチルCoAを運び入れるために必要な

カルニチンも足りなくなってきてしまい、その結果脂肪が燃えにくくなります




そして運動強度や運動時間でエネルギー源の利用率が変わる背景には、

筋肉の種類の違いもあります




筋肉は遅筋繊維と速筋繊維という2種の繊維状の細胞をブレンドしたものですが、

両者の性質は対照的です

遅筋繊維は収縮スピードが遅く一度に出せる力は小さいが、持続的に力を出力する 

スタミナに優れた筋肉 いわゆるマグロの赤身 

回遊魚であるマグロは絶えず泳いでないといけません疲れるわけにはいかないのです

 


一方 速筋繊維は収縮スピードが速く 瞬時に大きな力を発揮するのが得意だが、

反面スタミナがなくすぐバテます ヒラメやタイなど瞬時に素早い動きをする魚の白身

ヒラメ等の磯魚は普段は海底の砂に隠れ 餌が近づいてくると、

飛びつき捕食するという一瞬の動きが主であるため、速筋が多いんですね



筋繊維タイプの分類

Type-Ⅰ:持続的に活動できる遅筋繊維 (心筋や脊柱起立筋などが代表的)

Type-Ⅱa/c:収縮速度が速く強い速筋繊維のうち比較的有酸素的代謝能力
(酸化的酵素活性)が高い (ヒラメ筋や長内転筋が代表格) 

Type-Ⅱb:速筋繊維のうち有酸素的代謝能力が低い (長指伸筋や足底筋などが代表格)
無酸素的な代謝(解糖)能が高く、強い力を発揮できますが持久力はありません 


遅筋繊維はミトコンドリアが豊富で毛細血管も多く、酸素を介して脂肪を燃やしやすい

運動強度が高くなると速筋繊維も加勢するようになりますが

速筋繊維はミトコンドリアも毛細血管も乏しく 酸素で脂肪を燃やすのが不得手です

遅筋繊維が働く低い強度では カロリー消費量が少なく 燃やせる脂肪量は限られます

カロリー消費量を増やすために強度を上げると 速筋が働いて脂肪の使用率が下がります

このジレンマを見事解決するのが

登山やランニング・ウォーキングなどの有酸素運動になります



さあここで LTレベルの出番です

登山やクライミング・ウォーキング・ラン のように息が切れない程度の強度で

酸素を取り込みながら動き続ける領域が 脂肪燃焼効率が最大化し

さらに乳酸も血液中に溜まりづらくなります

単位時間当たりのカロリー消費量は多くありませんが 息を切らさず長時間続けられますから

トータルの脂肪消費量は多くなります

登山の場合、1日の行動時間も長くなると10時間なんてこともありますから

ジムやウォーキングなどではなかなかこうはいきません

それに重いザックを背負って アップダウン ということになれば

そうとうなエネルギー消費量ということになります

有酸素運動の継続でLTレベルもOBLAも右にシフト


ここで大事なのは LTレベルを維持するということ!

前回までに 運動の負荷を測る 最良の物差しが 心拍数 ですというお話をしました

定期的な登山やクライミング ランやウォーキングを続けていると上の図のように

グラフはだんだんと右にシフトしてきます

ということは同じ運動強度でも心拍数は上がらなくなってきます

苦しさを感じるポイントが後ろ倒しになってくるということです

このLTレベルでの登山やウォーキングなどを続けることで

有酸素運動能力が確実に上がってきます



筋肉に酸素を運び入れる毛細血管の密度も高くなり、その酸素を介して脂肪を燃焼させるミトコンドリアの数も増えてくるからです
さらに呼吸筋なども鍛えらえ、心肺機能全体も底上げされます
さらにこの有酸素運動の継続は 有酸素的代謝能の高い遅筋繊維の割合を
増やすことができます これは「筋繊維転換」と呼ばれます
細くてより持久力のある筋肉、脂肪酸β酸化能力の高い筋肉に生まれ変わるわけです
これがトップクライマーの「クライマー体型」の秘密ですね!


ATPがADPに加水分解されるときにエネルギーが発生しますが、細胞内に貯められるATPの量には限りがあります。有酸素運動で筋肉内でATPが大量に消費されるとAMPが増えてきます。それを感知するセンサーがAMPK!AMPKは筋肉以外にもあらゆる細胞に含まれ、
全身の栄養レベルと細胞レベルの栄養状態を調整してシンクロさせる役割を果たしています。
有酸素運動を続けてATPを大量に消費する生活をしていると細胞は、
「エネルギーをもっと作らないといけない」と判断AMPKが活性化して、ATPの再生に不可欠な糖質と脂肪の細胞内への取り組みを増やすように働きます。
とくに多くのATPが再生できる脂肪をミトコンドリア内にスムーズに運び入れる環境が
整備されてきます。
さらにAMPKは、ミトコンドリアと毛細血管を増量しますこのミトコンドリアと毛細血管を増やす遺伝情報を読み取る転写因子が新しいキーワード 「PGC-1α」です。
PGC-1αのスイッチが入るわけです。

LTレベルの登山を続けていれば 長時間の山行に耐えうる身体に変わってくるんですね
でもトレーニング登山やランなら 時にはちょっと苦しいなあぐらいになることもあるでしょう
LTレベルを超えたなあと感じたら(心拍数が70%を超えたなあと思ったら、
あるいは息が切れて苦しいというポイントでもOK)どうするか?
答えはカンタンで 登るスピードや走る・歩くスピードを落として 心拍数を20程度低くします



そうすると酸素の供給が間に合いはじめて 乳酸はクエン酸サイクルに取り入れられ
燃焼されるようになります
運動強度と心拍を落として代謝に関わる酸素需要を減らしてやって
酸素の需要と供給のリバランスを図ってやればいいわけですね
このバランスがとれれば 乳酸の再利用(リユース)がスムーズになります
そしてこの乳酸のリユース能力もこういったトレーニングの繰り返しでアップします

登山をやりはじめたころ 登りでどうしても ペースを上げすぎてしまって
いわゆるバテバテの状態になっていました
LTレベルのグラフでどうなっていたか 一目瞭然です 
逆に言うと LTレベルを維持していれば、 どんな長時間でも登り続けられる
歩き続けられるということですね


急坂なら極力意識してゆっくりペースを維持しましょう
平地なら少しペースを上げても LTレベルが維持できるでしょう
LTレベルを維持しつつ 脂肪をエネルギー源とした 有酸素運動を継続し
筋肉を変えていきましょう(有酸素的代謝能の高い遅筋繊維の割合を増やしましょう) 
筋肉が変われば どんどんと楽に長く動ける身体になってきます

次回に続く・・・


バックナンバー

登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.1

登山~クライミング~ は理想的な有酸素運動! Vol.2

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です! VOL.3. 山で使う筋肉の話

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.4 「 LT レベルを守る 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.5 「 LT レベルをヤマに活かす① 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.6 「 LT レベルをヤマに活かす② 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.7 「 LT レベルをヤマに活かす③ 」

登山CLIMBINGは理想的な有酸素運動です!VOL.8  EXERCISE & PGC-1α