BS1シリーズ コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」第4章

BS1シリーズ コロナ危機
「グローバル経済 複雑性への挑戦」

アルベール・カミュの「ペスト」が話題だ。
新型コロナウイルス感染拡大の中、人々は作家の想像力に現代にも通じる心のあやを見出そうとする。中世のペストは少なくとも3度にわたり大流行を見せた感染症だ。魔術から科学へと人々の認識は進歩したが死への恐怖を感じた時、人間な不条理な行動は昔も今も変わらない。他者への疑心暗鬼にとらわれる人々。それはグローバル化に背を向け閉ざされた社会へと向かうのか。遠く離れた異質な社会を結び付けてきた資本主義のネットワークは一時停止を余儀なくされた今どうなるのか。後編は歴史の中に現代の危機を越えるヒントを探り、今後を展望する。

今、必要な発想の転換とは?





第4章「歴史の針をどこまで巻き戻す?」



「現在の経済的 財政的 地政学的状況ですが・・・米中間の対立による影響がさまざまな面で甚大です。私の見立てをお伝えするとワシントンと北京の間を貿易交渉が短期的にどう展開しようと長期的には「冷戦」のような状態に向かっています。


世界の企業家たちが信頼を寄せる歴史学者ニーアル・ファーガソン

独自の視点をもつ彼が着目したのが 1914第一次世界大戦の勃発だ。

「パンデミックの影響と戦争の影響を比べると面白いことがわかります。ある意味両者は非常によく似ています。最初は大きなショックを与えます。違う点は戦争では少なくとも20世紀の戦争では多くの若者を動員する結果になります。兵器や銃弾に多額の資金を使うため経済はすぐに活況を呈します。パンデミックは違います。多くの若者を医者として送り込むことはできません。それには多くの訓練を要します。戦争と比べるとパンデミックははるかに経済を縮小させます。つまりパンデミックは最初は戦争と同じようですが、すぐにデフレと縮小を引き起こす他の何かに変わるのです。」



「戦争は大きな地ならし機のようです。多くの人に同じくらいの代償が支払われます。それに両世界大戦ではすぐに価格と賃金が統制されるようになりました。そのため収入格差が大幅に縮まりました。また高額所得者たちには多額の税金が課されました。今回のパンデミックには逆進的な性質があり、自分を守るのも金持ちには簡単ですが貧しい人には難しいでしょう。」


「繰り返しますが今回は逆進的なパンデミックになると考えています。ウイルスは相手が金持ちか貧しいかマンハッタンのアッパーイーストサイドに住んでいるのか、クイーンズの貧しい地域に住んでいるのか気にしません。ウイルスは差別しません。しかしそのウイルスに感染するとほとんどの国ではその後はその人の収入にかかってきます。そのため戦争と違ってパンデミックは不公平さを拡大させると考えるのが妥当でしょう。」


富める者をより富ませ 貧しきをより貧しくする
パンデミックの逆進性。
戦時下の人の動き、物資の動きを比較した時
現在進行中の危機は格差を拡大、分断を更に進め、
社会に不安定性をもたらすと警告する。




では時計の針を第二次大戦後の混乱 不況へと巻き戻してみたらなら
どうなるのか。
金融史の視点からの考察だ。






ペリー・メーリング
「私は今の状況を第二次世界大戦直後の状況と比較しているのですが、当時アメリカの国務省でドイツの復興を担当していた有名な経済学者チャールズ・キンドルバーガーがやってきた仕事が思い浮かばされます。今日の私たちも掲げるべき有名なスローガンを彼は掲げていました。それは「市場が機能しないなら市場を使うな」というものです。



私たちには未来がどうなるか分からないので、市場が私たちの課題の方向性をあまり示してくれるとは思いません。市場では単に未来のことを現在に還元しているだけです。未来のことが分からなければ、価格設定の基準となるものは何もなく、とても不安定な状態に陥り、間違った方向に向かってしまう可能性があります。」


市場での自由な取引と国家による強力なリーダーシップ。そもそも第二次世界大戦後の自由貿易は戦争の背景となった保護貿易を解消し、取引によって結ばれることを礎に生まれた。苦い経験を経た上での信頼関係。国家という枠組みによる協調はもはや理想にすぎないのか。

未知の感染症によって危機に陥った中世の人々。
その後社会は大きく変わった。
だが 今 近代が築き上げてきた 理念 ルールを
誰もが信じていないとしたら 世界は どこへ向かうのか。



第5章 「経済が弱者を追い詰め社会を壊す?」




第1章 『 コロナ危機 そのとき世界は?』