BS1シリーズ コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」第7章

BS1シリーズ コロナ危機
「グローバル経済 複雑性への挑戦」


第7章『複雑性の回復力』


ジョセフ・スティグリッツ
「パンデミックはいかに回復力(弾力性)が重要かを示しています。市場全体は回復力(弾力性)を本来ならばそうであるべき方法では評価しません。20世紀21世紀初頭の経済を定義づける特徴である新自由主義は近視眼的でした。2008年にもそれが垣間見られました。銀行が短期の利益を最大化しとても回復力(弾力性)のない金融システムを作り上げたのです。そしれこの短期主義の問題が広がりました。他の例をあげてみましょう。アメリカの自動車ですが、多くの車はスペアタイヤを取り除いてしまいました。スペアタイヤの分を払う必要がないので少しお金の節約になります。タイヤがパンクしないかぎりはいいでしょう。しかしパンクしたときにそれがどうしても必要になります。

回復力<短期的な利益 そのツケ?

回復力(弾力性)を犠牲にして短期的な利益を追求しているのです。もう一つの例をあげましょう。我々はすべての病院のベッドを使っていることを誇りにしています。どの病院も空のまま放置していないのです。使われていない人工呼吸器もありません。変動や流行病などがない限り問題はありません。

効率性の果てに・・・

多大な効率を追求し世界のどこがすべての製品のすべての部品を作るのにもっとも安い場所であるかを追求し、それが複雑な相互依存的なサプライチェーンを作り出しました。しかしそれでは特定の場所で問題が起これば、すべてのサプライチェーンも崩壊してしまうことになります。我々は不十分に多様化しています。

今のサプライチェーンには複雑性が足りない?



複雑性の重要性






これはハーバード大学の調査による
世界各国の経済の複雑性を表したものだ
輸出を通して見えてくる各国の産業構造の分布が可視化されている
モザイク模様がきめ細かく見えるほど
その国の経済が多様な産業によって構成されていることが分かる
世界各国それぞれの特徴がある








天然資源を主力として少ないブロックで構成されている国
ITなどを中心に大きなブロックの組み合わせの国
日本は大小のパーツの組み合わせが多く
きめ細かさが群を抜いているのが分かる

ブロックの色はそれぞれの産業の生産工程が多岐にわたるほど濃い緑で
工程が少ないほど茶色で示されている
実はこの複雑性の調査において
1995年の開始以来、日本はトップだ。

コロナと共に生きていく with コロナ時代に
世界トップの経済の複雑性はどんな強みを意味するのか。


飯田泰之
「資本主義、自由主義経済というのが生き延びていくためには、自由主義経済の外にある人たちとか、自由主義経済とかグローバル資本主義と関係のない人たちというのが一定数いてくれることによって安定的な資本主義というのが可能になる。これはですね、まさに全く摩擦のない道路、これは危なくてしょうがないんですね。しっかり摩擦があって、時々ちっちゃい石をタイヤがかみこんでくれるからだからこそ安定的にその道を走ることができる。それと同じで、効率化すればするほどワンショックで崩れてしまう。そのことも学んでいく必要がある。ある意味でいうと資本主義というのは混ぜ物があるからこそ成立しているということ。これは重要なポイントだと思います。」

複雑性が資本主義を支えている?







ニーアル・ファーガソン
「経済の複雑性は多様性と付加価値があることを意味するので良いことではあります。ここでの複雑性というのは貿易における複雑性を指しています。その国が貿易で輸出入を行っている商品の多様性です。つまり日本というのは貿易にかなり依存した経済だといえます。それはある意味グローバリゼーションが危機的状況にあると思われる今、かなり厳しい状況を迎えようとしているともいえるのです。

強みにも弱みにもなる日本の複雑性
そこで複雑なグローバルな関係性を否定して
単にローカルに戻ってしまうのではない
新たなネットワーク構築の発想法はないのか?




ペリー・メーリング
「これは脱グローバリゼーションだと思います。そこでは国際分業的な経済的なメリットを失うことになります。最も大きな被害を受けるのは末端周辺国です。世界経済に最近加わり、グローバリゼーションの最大の恩恵を受けてきた国々です。在庫が十分にないのは、マスクや個人防護具、重症患者を助ける為に必要な様々な機械類といった医療用品だけではありません。そういった物の在庫が十分にない一方で車や他のものを作るために必要な部品の在庫も十分にないことが分かりました。一つの部品が不足していると車は作れません。現代の生産方法で作られる他の多くのものについても同じことが言えます。ですのでショックに強くするために工業生産を再構築することになるでしょう。また今まさに”vital(命に関わる)"と考えられている産業が国内に回帰すると思います。製薬会社が移転されアメリカ国内へ戻されるかもしれません。医療機器やその他品物の生産そして他の産業も国内に回帰する可能性があります。国内に確保しておくべきvitalな産業は何かという議論もされ始めるでしょう。これは囲い込みへの移行の一部と言えます。」

もう一つのデータの読み方がある
アメリカの輸出を産業別に色分けしたタイルを
時系列で追いかけると・・・



この20年 成長するITを筆頭に
サービス業の割合の拡大がよくわかる。
競争力の高い分野に特化する戦略で成長を続けた。
一方、日本の輸出の割合。
時系列で追いかけても
色の幅すなわち産業の割合自体は
20年を通じて大きく変わらない
選択と集中が叫ばれ続けたが
集中が達成されたとは言い難い
皮肉なことにこれが強みになるのか?







これまで生産性の高い部門に特化しきれないことが
弱点ともいわれてきた日本の産業。
だが国内産業の裾野の広がりは
どこかで困難が起きた時
代替可能性とも弾力性ともなるのか?





ジョセフ・スティグリッツ
「私は大きな確信をもっています。日本がどうやって回復力(弾力性)効率性の正しいバランスととることができると、そして工学技術の能力を駆使してサプライチェーンを効率的で回復力(弾力性)の両方を持つように再構築できるだろうと思います。折り合いもでてくるでしょう。こうした種類の技術的ノウハウ熟考深い思案によってパンデミックの後に台頭する新たに構築された経済の中で日本がきわめて重要な方法で台頭してくるものと、大きな確信をいだいています。」

複雑性をガラパゴスゆえの強みと読み替えることはできるのか。
グローバル資本主義のルールが変わるとき
今までの価値観が揺さぶられるとき
世界の知性たちからの言葉は・・・




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